ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
「その辺りの対策はきちんと検討中ですのでご心配には及びません」
「対策って、具体的には?」
「そ、そんなこと社外の方には教えられません……!」
この場で具体性のある説明はできそうにないので、そんな言い訳で切り抜ける。
どうして瀬戸山はそんなにも美吉ブロッサムを気にかけるのだろう。競合他社が潰れても彼に損はないのだから、放っておいてくれればいいのに。
「ま、それもそうだな。ただ、いくら小さな会社とはいえ他の社員の業務をきみがひとりで背負うなんて本末転倒な対策にはするなよ。経営者が倒れたら、会社全体が嫌な空気になる」
「わかっています、それくらい」
「そうか。余計なお世話だったようだな」
瀬戸山の物言いがどうも上から目線に聞こえて、心が波立つ。
私の子どもじみたライバル心には気づいているようだから、自分の方が上だとわからせようとしているつもりだろうか。想像していた以上に鼻持ちならない男だ。
「お話が済んだのなら、私はこれで」
他の場所へ移動しようと、縁台から腰を上げる。
「ちょっと待て。まだ話がある」
「こ、今度はなんですか?」
手首を掴まれ、振り向くしかない。
ゆっくり立ち上がった彼は、澄んだ切れ長の目に私の戸惑う顔を映した。