ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
そして、私の背後に立つと、両腕を広げた。その動作が、女性が遼太くんにバックハグされている例のCMのワンシーンと重なる。
本能的に〝嫌だ〟と思ったが逃げ出す隙がなく、身を硬くしながらギュッと目を閉じる。
蘭子さんは女性だったから口だけで勝てたけれど、男の人はそうはいかない。
本当は抵抗したいのに、恐怖で身動きひとつ取れずにいたその時だった。
「中路遼太。仕事を失ったにもかかわらず、まったく反省していないようだな」
ここにいるはずのない人の声がして、思わず目を開ける。
嘘……。どうして? 二度と私には関わらないはずじゃ……。
近づいてくる足音の方へ視線を向けると、片手をスラックスのポケットに入れて不機嫌そうな顔をした統がそこにいた。
「瀬戸山、社長……」
青ざめた遼太くんがぽつりと呟く。瀬戸山園のイメージキャラクターをつとめたことがある彼は、統とも顔見知りのようだ。
「苑香から離れろ」
短いひと言だが、統の声には有無を言わせない迫力があった。
遼太くんは気まずそうに唇を噛みつつ、言われた通りに私から距離を取る。
静かに歩み寄ってきた統が、私を背にかばった。彼に守られる理由はないと思うものの、安心感が自然と胸に広がる。