ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
「部屋の中までは入らないから、玄関まで送らせてくれないか? 逃げたように見せかけてアイツがまた来ないか心配だ」
統があれほど威嚇したから大丈夫だとは思うけれど、用心するに越したことはない。
それに、ほんの少しだけど恐怖がまだ残っていた。ひとりでマンションの通路を歩くのは心細い。
「ごめん。お願いしてもいい?」
「ああ、もちろん」
統と連れ立って、ようやくマンションの中へ入る。
私の部屋までは一分もかからないけれど、彼が隣にいてくれるだけで張り詰めていた気持ちが緩んでいくのがわかった。
……今さらだけど、統の隣はやっぱり安心する。
あっという間に部屋の前まで来たものの、別れの挨拶をするタイミングがわからなかった。
助けてくれたのに、すぐに帰してしまうのも心苦しい。
「あの……よかったら、お茶でも入れるけど」
「ひとりになるのが怖いか?」
そう尋ねる統の瞳は優しげだ。遼太くんと同じ男の人でも全然怖くない。
そう思ったら、素直な返事が口からこぼれた。
「……うん」
「わかった。じゃあお言葉に甘えて上がらせてもらうよ」
ふわりと心が浮き上がる感覚がした。彼と一緒にいられることを喜んでいるみたいに。
彼とはもう関わらないって、誰とも恋なんかしないって、決めたのに。