ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
「……はい」
話が中断している間に心を落ち着かせようと、私は自分の紅茶に口をつける。
ダージリンの上品で爽やかな香りが鼻から抜けて、ホッと小さく息をつく。
「蘭子さんがそっちに……?」
珍しく、統が焦った声を出した。その様子が気になってしまい、私もカップをソーサーに置いて彼が電話する様子を見つめる。
「俺のいないところで勝手に話を進めるのはやめてくれ。何度も言ったはずだが、俺は自分の決めた相手と結婚する。今だって、彼女と一緒にいるんだ」
統は頭痛をこらえるように額を手で押さえている。会話の内容から察するに、電話の相手はご家族だろうか。
蘭子さんの言った通り、彼以外はふたりの政略結婚を望んでいる……相手の声までは聞こえなくても、そんな雰囲気が伝わってくる。
「電話じゃ埒が明かないな。今からそっちへ行く。直接話そう」
通話を終え、耳からスマホを離した統が私にすまなそうな目を向ける。
「実家に蘭子さんが来てるらしい。父や彼女と話すために、今から行ってくる。一緒にいてやれなくてごめん」
「き、気にしないで。私なら大丈夫だから」
来たばかりなのに帰ってしまうんだ――と、一瞬思ってしまった自分に気づいて慌てる。
決して寂しいとかそういうのではなく、遼太くんに迫られた恐怖のせいだと思うけれど。