ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
「大丈夫じゃないだろ」
統は椅子から下りてこちらに歩み寄ると、座ったままの私の背中を引き寄せ、強く抱きしめた。
これ以上甘やかさないでほしいのに、彼の腕の中はどうしてか心地よくて、抵抗することができない。胸の奥がきゅうっと締めつけられた。
「意地っ張りのきみでも俺を部屋に誘いたくなるくらい、心細かったんだろ? そういう時は素直に甘えればいいんだ」
トントン、とあやすように背中を叩かれて、この人はなんでもお見通しだな、と思う。
だけど、居心地がいいからっていつまでも彼を繋ぎ止めているのはよくないよね……。
政略結婚を提案されるほど周囲からパートナーを望まれている統の大切な時間を、恋愛も結婚もするつもりがない私のために無駄にしてほしくない。
私はそっと彼の胸から顔を上げると、小さく息を吸った。
「ねえ、統。もう、私と結婚しようとしてくれなくていいよ」
そうすれば、家族の説得など必要ない。蘭子さんだって喜ぶ。
彼女は綺麗な人だし、性格がきつそうに見えたのは私が目の前にいたからであって、統の前ではいい妻になるつもりだろう。
彼が気にしていた年の差も、一緒に生活するうちにきっと気にならなくなる。