ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
「見て、統。綺麗でしょう。お父さんが持ってきてくれたのよ」
母のために用意された病院の特別室には、いつも新鮮な生花が飾られていた。
その日見せられた花は、ピンク色のスイートピー。綺麗だとは思ったけれど、ただそれだけだ。
思うように食事ができない母に食べ物を渡すことはできないし、病気になる前好きだった本を読むことも、文字を追うだけで疲れてしまうために不可能。
渡せるものは花くらいしかないのは俺にもわかっている。
しかし、花が母の病気の進行を遅らせるわけではないと思うとやるせなかった。
それに、俺が渡さずとも父が欠かさず花を用意し、自分が見舞いに行けない時は部下に必ず届けさせていたから、俺からの花は別に必要ないだろうとも思っていた。
「……うん。綺麗だな」
「本当に思ってる?」
「思ってるよ。ただ、先週見た花とどう違うのかわからないけど」
「統ったら。この間のはカーネーションよ? 全然違うじゃない」
父と結婚してからは専業主婦だった母だが、元花屋店員なだけあって、花には詳しかった。
もっとも、スイートピーとカーネーションの違いは、花に詳しい者でなくてもわかるレベルのことだが。