ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
「とはいえ、たとえば軽いけがで入院している患者さんなら、私もここまで言わないけどね。奥様のような、重い病気にかかられている方に贈る花には、より気を付けた方がいいわ。紫陽花はとても綺麗だけど、飾っているうちに花が色褪せてしまうの。その様子を、限りある自分の命と重ねてしまったらと思うと……坊ちゃんもつらいでしょう?」
女性店員がそう言って暗い顔をすると、俺はもう紫陽花が欲しいなんて言えなくなった。
ただ、納得できない思いも胸の内でくすぶる。
患者本人が欲しいと言っているのに、ダメだなんて……逆に縁起がよいとされている花を渡したところで、母の寿命が延びるわけでもないんだろう?
そんな問いが頭の中を駆け巡ったが、直接女性店員にそれをぶつけるのは意地が悪いことだと自分でもわかった。
彼女だって、かつて同僚だった母の病状に胸を痛めているはずで、だからこそ、花の選び方にも慎重になっているのだから。
その後、他の花を勧められたものの買う気にはなれず、俺は結局なにも買わずに店を出た。
知り合いのいない花屋に行って、見舞い用だとは言わずに紫陽花を買うことも考えた。
しかし、瀬戸山園で売っている上質な花を見た後では他の店の花をあまり魅力的に感じず、軽く眺めては素通りする。