ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
途中で雨も降ってきたため、今日のところは紫陽花をあきらめて母のお見舞いに行こうかと思いかける。
それでも、もし母が俺の言葉を覚えていて、紫陽花を楽しみにしていたら……。
駅に向かおうとしていた足が、ぴたりと止まる。
あと一軒だけ回って、それでもダメなら日を改めよう。そう決めて、再び徒歩で花屋を探し始めた。
徐々に雨脚が強まってくると挫けそうになったが、母の喜ぶ顔を思い浮かべて歩き回り、ようやく小さな花屋を見つける。
レンガ調の外壁に、扉は大きなガラス張り。入り口の上にかかった看板には【美吉ブロッサム】と書いてあった。日差しや雨を避けるシェードの下に、色とりどりの紫陽花が並んでいる。
梅雨の時期だからどの店も目立つ場所に紫陽花を置いていたが、この店の花が今までで一番生き生きして見えた。
花の色は濃く鮮やかで、葉は先端までぴんと伸びている。
こんなに元気そうな花なら、母も喜ぶかもしれない……。
「紫陽花をお探しですか?」
その時、店員らしき女性が店の中から出てきた。
高校生だろうか。白いワイシャツと紺のプリーツスカートにエプロンを着けた姿で、年は俺よりも年下に見える。ここでアルバイトをしているのかもしれない。