ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
「縁起が悪いかも、なんて考えを吹き飛ばすくらいの綺麗な紫陽花の花束を作ってみましょうか。鉢植えは避けるにしても、切り花ならアリかもしれません」
意外な提案をされ、咄嗟に返事ができなかった。
黙っている俺に構わず、紫陽花のバケツのそばにしゃがんだ彼女は、軽く悩みながらもいくつかの紫陽花を手に取る。
ピンク色を基調に、小さな手毬のように咲いた品種や、花火のようにも見える紫陽花を選び、手の中でサッと花束を作っている。
「うん、いいかも。他の花を交ぜるのはオッケーですか?」
「あ、ああ」
「でしたら、より元気いっぱいの色味のオレンジのバラと、カスミソウも入れましょうか。あとガーベラも……」
俺が口を挟む隙もなく、素早く花束を作っていく彼女。その目は真剣で、俺は女性に、しかも年下と思われる相手に対して初めて〝カッコいい〟という感想を抱く。
彼女の手の中で完成されつつある紫陽花の花束も、言葉通り生命力にあふれるような出来栄えだ。
いったいこの子は何者なのだろう?
その仕事ぶりに圧倒されていたら、彼女がふと焦ったような表情になった。