ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
「す、すみません……。まだ、ご予算を聞いてませんでしたよね。それに、勝手に花束を作るなんて出過ぎた真似でした。私、この店をやっている夫婦の孫というだけで正式な店員ではないんです」
親ではなく、祖父母の店だったのか。どちらにしろ、花屋という存在が身近であることに、親近感を覚える。
……しかし一方で、彼女と俺は圧倒的に違うとも思った。
家業を継ぐ覚悟が決まらず花のことを詳しく知ろうともしない俺に比べ、彼女は真剣に花と向き合っている。そして、俺という客にも。
花屋としてのセオリーにとらわれることなく、俺が求めている理想の花束を鮮やかな手つきで作る彼女が眩しく、その姿に強く惹かれている自分に気づく。
ただ、今日が初対面でまだ名前も知らない彼女に対していきなり行動を起こそうとは思わなかった。
母のことも心配だし自分の進路も決めかねていた俺は、浮わついた感情に身を任せる気分にはなれなかった。
それでも、彼女の素晴らしい仕事に対しては敬意を払いたい。
「この花束、包んで」
「えっ……?」
「買うって言ったんだ。それとも、ラッピングはお祖父さんかお祖母さんに頼まないとできないのか?」
彼女に限ってそんなはずはないと確信しながら問いかける。すると、彼女はぱぁっと表情を明るくした。