ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
「統。……雨なのに来てくれたの? 学校だって忙しいのにごめんね」
病室を訪れた俺に、母はすまなそうな顔をした。手元のリモコンでベッドのリクライニングを軽く起こす。
母が自分でその操作をする時は、比較的体調のいい時だ。
「そんなの、家族なんだから気にするなよ。それよりほら。母さんが見たがってた花」
ブーケバッグの中から、注意深く花束を取り出して母の目の前にそっとかざした。
「紫陽花……それに、他も綺麗な花ばかり。これ、統が?」
「ああ。小さい花屋だったけど、すごく元気な花が揃っててて……何軒か回ったけど、ここの紫陽花が一番いいなと思ったんだ。店の人も、親身になって花を選んでくれた」
母は驚いたように目を瞬かせ、花束の主役である紫陽花を見つめる。
そして黙ったままじっくりと観察した後、穏やかな微笑を浮かべた。
「ありがとう。すごくうれしい」
母がそんなに明るい声を出すのは久しぶりだった。俺も自然と笑顔になり、「よかった」と頷く。
胸の内では、美吉ブロッサムにいたあの子に感謝を伝えていた。