ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
彼女に出会わなければ、今日の母の笑顔は見られなかった。
俺たち家族に残された時間は少ないが、たとえばこうして一緒に花の美しさを愛でるような小さな幸せを、これからも大事にしたい。
そうすれば、いずれ訪れる母との別れの時もきっと後悔が少なく、家族で過ごした記憶を胸に前を向いて歩ける気がするから。
「母さん、俺さ」
花たちを花瓶に移して母からよく見える棚に飾ると、俺はベッド脇の椅子に腰を下ろして口を開く。
「瀬戸山園、本気で継ぐって決めた」
花の美しさは病の人の心をも和ませるし、その瑞々しさは心に活力を与える。
父が紫陽花の咲き乱れる鎌倉をプロポーズの場所に選んだように、人々の絆を繋ぐ手伝いだってする。
これまでは花なんてなくても生きていけると思っていたけれど、世界から花が消えたらどんなに殺伐として味気ないことだろう。
……俺は、花のある色鮮やかで豊かな世界で生きたい。
「統、好きな子でもできた?」
「えっ? なんで?」
まじめに自分の決意を語ったつもりだったのに、母は俺にからかうような目を向ける。
どうして急にそんな話になるのだろう。