ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
「だって、なんだか急に大人の顔つきになったから」
母がジッと見つめてくるのが照れくさくて、そっけなく目を逸らす。
視線の先には花瓶に生けた紫陽花の花があって、その花に重なるようにして、あの子の顔がパッと浮かんだ。
……好きな、子。
それまで色恋にはあまり興味がなく、女子と付き合いたいとかそういう欲求もなかった。
しかし向こうが一方的に想いを寄せてくるパターンはあり、数カ月に一度は学園内のどこかに呼び出されて告白される。
気持ちに応えられないのでもちろんすべて断っているが、同性の友人たちにはよく「もったいない……!」と文句を言われたものだった。
もったいないと言われたって、付き合いたいと思わないんだから仕方がないだろう。
いつもそんな風に冷めた思いでいたが、もしも美吉ブロッサムのあの子が同じ学校にいて、これまで告白してきた女子のように、俺をどこかに呼び出して、はにかみながら想いを告げてきたとしたら……。
『瀬戸山くん、あのね、私――』
……って、俺はなんて自分勝手な妄想をしているんだろう。