ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~

 俺はとっさに椅子から身を乗り出し、病のせいですっかり痩せて小さくなった母の体を抱きしめる。腕の中で母が小さく鼻を啜った。

 幼い頃は逆に母から抱きしめられ、大きな安心を貰っていたのに……今では逆の立場になってしまったことが切ない。

「ほらね……。私の息子、優しいでしょ?」
「もう、わかったから……休もう。はしゃぎすぎてきっと疲れてる」

 母の体をベッドに戻し、リモコンでベッドの角度を倒していく。その途中、ふと病室のドアが音を立てたような気がして、パッと入り口の方を向く。

 しかしそこには誰もおらず、扉も閉まったままだった。

 ……気のせいか。

 ベッドに視線を戻すと、母は目を閉じて眠っていた。

 俺に好きな子ができたとはしゃいでみせたのは、きっと心配をかけまいとする母の優しさだったのだろう。本当はかなり体力が落ちているのに。

 無理はしなくていいから、どうか、一日でも長く生きていて――。

 静かに眠る母に胸の内でそう伝えると、俺は病室を後にした。

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