ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~

『……苑香さん?』

 寝ていたのだろうか。遼太くんの声はどこか気だるげだ。

「ごめん、寝てたかな? 仕事が思ったより早く終わったから、早めにうちに来れないかなと思って電話してみたんだけど」

 話しているうちに、私だけが浮かれているような気がして恥ずかしくなる。

 三十を迎えた恋人の落ち着きのなさに、遼太くんも呆れていたりして。

『……苑香さんは勝手だね』
「えっ?」

 声は穏やかだったが、冷ややかな言葉が聞こえて思考がフリーズする。

 なにも言えない私に、遼太くんは深いため息をつく。

『俺が会いたいと思った時はいつも忙しいのに、自分に時間ができるとこっちの予定お構いなしにこうやって呼び出してさ……。俺、もう疲れたよ』

 遼太くんがこんなことを言うのは初めてだった。

 確かに、普通の恋人より会える時間は限られていたかもしれない。

 私は社長なんてやっているし、遼太くんが身を置いているのは芸能界。彼はこのところドラマ出演なども増えてきた、新進気鋭の若手俳優なのだ。

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