ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
母の余命はほとんど医師の宣告通りだった。
八月の終わりに眠るように息を引き取った母の最期は、家族で看取ることができた。
母の両手は父と俺とでそれぞれ握っていたので、母にとってつらく寂しい別れではなかったと俺は信じている。
通夜や葬儀、初七日の法要を終え忙しさが途切れると、今度は父が元気をなくしてしまった。
ある程度覚悟していたとはいえ、最愛の妻をなくした深い悲しみは、きっと俺には想像もつかないものなのだろう。
家の中には常に暗いムードが漂い、それを少し息苦しく感じた俺は、美吉ブロッサムに行ってみようと思い立った。
これまでも一度だけ足を運び、紫陽花の花束を作ってくれた彼女にお礼を言おうとしていたのだが、店にはシャッターが下りていて、【誠に勝手ながらしばらく休業いたします】という貼り紙がしてあった。
しばらくとは、どれくらいなのだろう。彼女のお祖父さんかお祖母さんの具合でも悪いのだろうか。
大好きな花屋の店頭に立てず、彼女は落ち込んでいないだろうか……。