ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~

 そう心配する気持ちもあったが、当時はとにかく母のことが最優先だったために、深く調べようとはしなかった。

 もっとも、その後インターネットで美吉ブロッサムについて調べた際も、住所や電話番号といった基本情報しか出てこなかった。

 小さな個人店ゆえに仕方がないことなのだろう。

 ……また行ってみるしかないか。久々に訪れてみれば、何事もなかったかのように店を再開しているかもしれない。

 実行したのは九月だった。印象深いあの店の場所は、彼女にもらったショップカードの地図を見なくても、足が覚えていた。

 少しレトロな印象のレンガ調の外壁、店頭に並ぶ生き生きとした花、そして、あの子の笑顔。

 まともに店に入ったのはたった一度だけだというのに、鮮明に記憶しているあの日の光景を、脳内で何度も繰り返し再生する。

 この角を曲がれば――。

 しかし、俺の目に映った景色は、期待していたものと違った。

 店の入り口には以前と同じくシャッターが下りていて、当たり前だが花はひとつも並んでいない。ほんの数カ月見ない間に、看板も少し色あせた気がした。

 まだ休業中なのか……?

 下りているシャッターに近づき、そこに貼られた注意書きに目を凝らす。

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