ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~

【誠に勝手ながら】の文言が同じだったためにその先も以前と変わりないのだろうと思いかけたが、そのまま文字を追った俺は愕然とした。

【誠に勝手ながら美吉ブロッサムは閉店いたしました。長年のご愛顧誠にありがとうございました】

 突然のことに頭がついて行かず、俺はしばらくその場を動けなかった。

 店に行けばいつかは会えると信じていたのに、その店自体がなくなってしまうなんて。

 祖父母の店だと言っていたから、住まいが近所である保証もない。

 彼女がエプロンの下に着ていた制服もどこにでもありそうなデザインだった。つまり、制服から学校を辿ることもできない。彼女に関する手がかりはゼロだった。

 思わずため息を吐き出し、美吉ブロッサムのあった建物に背を向ける。

 元々、ハッキリとした恋心があるというわけではなかった。ただもう少し、彼女を知りたかっただけ。

 会えなくなったからって、そう落ち込むほどのことではないはずだ。

 もしも彼女がこれからも花を愛し続けるなら、どこかでまた運命が交錯するかもしれない。もう一度会えたら、その時には瀬戸山園の後継者として胸を張れる自分でいればいい。

 そんな風に思うと少し心が楽になった。

 しかし、この先彼女に会える確率は限りなく低いであろうことを思うと切ない想いは拭えず、やっぱりあれは俺の初恋だったのかもしれないと、後になって自覚した。

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