ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~

 だから、美吉ブロッサムが再び同じ名前で花屋業界に戻って来たと知った時は、俺の都合のいい妄想ではないかと疑った。

 社長の名は、美吉苑香。今度はインターネット上で詳しく企業情報について調べることができ、そこには社長の顔写真もあった。

 苑香は愛らしい少女だった頃の面影を少し残しつつも、美しい二十四歳の女性に変貌を遂げていた。

 初めて会った時から八年の歳月が過ぎており、二十六歳だった当時の俺は瀬戸山園の事業部長として研鑽を積んでいる頃だった。

 恋愛や結婚など考えている暇もなく、学生時代と同じように興味もなかった。

 しかし、苑香の写真を目にしたその時だけは、初恋の時に感じた甘酸っぱい思いが胸にこみ上げる。

 彼女が同じ業界で頑張っている。そう思うだけで励みになった。

 会いたい気持ちもあったが、小さな会社とはいえ立派にトップを務める苑香に対し、父の瀬戸山園でまだ修業中の身である自分では、軽々しく彼女に近づく資格がない気がした。

 幸い、新生美吉ブロッサムは業界内で注目の存在で、会社として大きな動きがあればすぐに情報が入って来る。

 昔とは俺たちの立場も違うし、なにもわからないまま彼女の行方が知れないなんて状況になることもない。

< 163 / 229 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop