ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
恋心と同時に湧いた庇護欲に突き動かされるようにして、その晩はずっと苑香と一緒にいた。
俺の隣で安心して眠る彼女を見ているだけで、愛おしさがとめどなく溢れる。
昔の美吉ブロッサムが閉店してしまった時の喪失感や後悔が残っているせいか、今度こそ絶対に彼女を離してはいけないと強く思った。
今は失恋したばかりで俺のことなんて眼中にないかもしれないが、必ずこちらを向かせてみせる。
手段は選んでいられない。それほど、俺はきみが欲しいんだ。
声に出さずにそう伝えながら、彼女の髪に触れ、頬を撫で、そのまま指先で唇に触れる。
衝動的にキスをしたくなったが、なんとか寸前で堪えた。
起きている時の苑香に『ダメ』と言われたことを、寝ている時にするのは卑怯だ。
「……おやすみ」
そう呟く自分の声は、恥ずかしいくらいに甘い響きに聞こえた。
胸の高鳴りもしばらく収まりそうになく、俺は眠れないのをいいことに、心ゆくまで苑香の愛らしい寝顔を眺めていた。