ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
「苑香さん、新しい彼氏いるの?」
ふたりの人影に近づこうとした瞬間、不吉な会話が聞こえて思わず立ち止まる。
この甘ったれた喋り方は、アイツのものに違いない。本当に苑香に会いに来ていたらしい。
どの面下げて、と、普段はあまり使わない罵り言葉が思わず頭に浮かんだ。
「別にいないけど……」
「だったらいいじゃん。家に置いてくれるなら、寂しがりの苑香さんのこといっぱい癒やしてあげる。俺が出てるカイロのCM見たことある? あんな風にさ」
居てもたってもいられず、足音を殺しながらふたりのそばへ近づく。俺に気づいていない中路は両手を広げ、あろうことか苑香を背中から抱きしめようとしていた。
プツッと、頭の中でなにかが切れる音がする。
「中路遼太。仕事を失ったにもかかわらず、まったく反省していないようだな」
腹の底から、低い声が出た。俺の姿を認めた中路が、わかりやすく怯えて身を竦める。
女性に対してはすぐに甘い言葉をかけて自分のために利用しようとするくせに、自分より立場が上の男には逆らえない。
そんな彼の人間性を心底軽蔑した。