ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
俺と社長職を交代した後も相談役として会社に残っている父だが、経営に関してもあまり口を出さず俺の判断を信じてくれるので、その点はありがたく思っている。
しかし、結婚についてだけはどうしても意見が合わない。
だからこそ感じるもどかしさを抱えつつ室内に足を進めると、ローテーブルを挟んで父の対面に座っていた蘭子さんが、ソファから腰を上げて歩み寄ってくる。
「お仕事お疲れ様です」
そう声をかけられたものの、俺は彼女には一瞥もくれず、父の元へスタスタ足を進めた。
テーブルの上に広げられているのは、あちこちの式場のカタログ。それに、美吉ブロッサムの会社名が入った装花の見積書だった。
苑香が言っていた依頼というのは、これか……。
新郎の名前の欄には許可なく俺の名前が入っており、ますます頭にくる。
こぶしを握り締めて書類を見つめる俺に、父が空気を読まず話しかけてくる。
「お前、自分の結婚式だからといって照れ隠しに他の花屋に結婚式の花を頼んだそうじゃないか。そんなにコソコソしなくたって、瀬戸山園が豪華絢爛な花を用意するつもりなのに」
「頼んだのは俺じゃない。そもそも、俺は蘭子さんと結婚しない。どうして聞く耳を持ってくれないんだ?」