ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~

 これまで何度も父に訴えた。蘭子さんと結婚するつもりはないし、俺には心に決めた相手がいると。

 しかし、この話しぶりでは俺の真剣な気持ちは伝わっていないようだ。

「統さん。私、先ほどお父様の本当のお気持ちを伺いました。私との結婚を勧めるのは、お父様の優しさなんです」

 先ほど俺に無視されたことなど堪えていないように、蘭子さんが神妙な顔をしてこちらへ戻ってきて、俺に寄り添う。

 さりげなく腕に触れられそうになったので、思わず振り払った。

「息子の気持ちを無視することのどこが優しいんだ?」

 俺に睨みつけられた父は、ソファの背もたれに深く寄りかかって苦笑する。

「そうカッカするな。私は、自分の経験に基づいて、お前に蘭子さんと結婚した方がいいと助言している」
「経験? ……それを言うなら、自分だって政略結婚を受け入れなかった側の人間だろ。周囲の反対を押し切って母さんと結婚したことに、後悔があるとでもいうのか?」

 そんなはずはない。

 母が生きていた頃のふたりは、本当に仲睦まじかったし、幸せそうだった。

「……ああ、後悔している」
「えっ?」

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