ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
あれほど母を溺愛していた父の言葉とは思えない。いったいどういうことなんだ?
自分の耳を疑っていると、父はなにもない宙を見つめ、過去を懐かしむように目を細めた。
「親の言うとおりの相手と結婚していれば、彼女を失った時のあの壮絶な痛みを感じずに済んだ。私は、お前の母親を愛しすぎていたんだよ。……彼女の後を追って楽になろうと、何度も考えた」
母が亡くなった時の父の胸中を聞くのは初めてで、息をのむ。
子どもの俺よりずっとつらいだろうとは察していたが、母と同じようにこの世を去りたいとまで考えていたとは想像していなかった。
「それに、つらかったのは別れの時だけではない。手の施しようがないからと最期の場所に選んだ病院で過ごしていた頃、見舞いに行くたびに痩せて衰弱していく彼女の姿を見るのが、私には拷問だった。花を贈る以外、なにもしてやれない自分も不甲斐なかった」
「……だから、見舞いに行くのもやめたのか?」
「そうだ。自分の心を守るため、現実から目を背けるしかなかった。それに……」
父がチラッと俺の顔を見て、気まずそうに目を伏せた。
言いかけた話の続きが気になる。