ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~

「一度、お前が母親を抱きしめているシーンを見てしまった。それが親子の愛情による行動だとはもちろん理解している。それでも私は、お前に嫉妬した。私が見舞いに行かなくなっても足しげく病院に通い、私が贈ろうかどうか迷っていた紫陽花の花束で彼女を笑顔にし、まっすぐ母親を抱きしめてやれるお前に……嫉妬したんだ」

 息子に嫉妬する父親など聞いたことがない。俺が紫陽花を贈ったのも、父との思い出の花が欲しいと言われたからなのに……。

「その時、深い愛は時に狂気に変わるのだと知った。自分の醜い心を嫌というほど思い知らされる、そんな思いをするのは私だけで十分だ」

 絶句する俺のそばで、父は静かに自分の思いを語り続けた。

 自分の経験に基づいて助言していると、先ほど父は言っていた。そして蘭子さんは『お父様の優しさ』と。

 最愛の妻を亡くすと言う経験を経て父が至った結論が、俺にもようやくわかってくる。

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