ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
父は神妙に俺の名を呟いたきり、俯いて黙り込む。
そばにいる蘭子さんは、俺たち親子の様子をハラハラしたようにただ見詰めていた。
「……わかった。お前の意思を尊重しよう」
「お父様……っ」
顔を上げた父の言葉に、蘭子さんが焦ったような声を出す。ようやく安堵した俺は、フッと肩の力を抜いた。なんとか気持ちが通じたようだ。
「蘭子さんには大変申し訳なく思いますが、私の息子にはどうしても譲れない思いがあるようだ。このような形で蘭子さんのお気持ちを踏みにじってしまったこと、心から謝ります」
「そ、そんな風に謝られても私だって困ります……」
これまで味方だった父が手のひらを返したのが計算外だったようだ。蘭子さんはきゅっと眉間を寄せ、不満そうな表情を隠しきれていない。
「……確かに困るよな。自分が謝らなきゃいけない立場になるのは」
「えっ?」
俺はテーブルの上の見積書に手を伸ばし、彼女に見せつけるようにして鼻先に突き付けた。蘭子さんの方がぎくりと跳ねる。