ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
少々嫌味っぽく告げると、父がすまなそうに眉尻を下げる。
「そういえば……今日も彼女と一緒にいたと言っていたな。お前たちも忙しいだろうに、ふたりの時間を奪って悪いことをした」
「悪いと思ってるなら、俺たちの結婚式をとびきりいい花で祝福してくれ。蘭子さんが勝手に注文した花より、ずっと豪華にな」
「わかった。私にも瀬戸山園前社長としてのプライドがある。お前と苑香さんを驚かせるほどの花を用意すると約束しよう」
父はうれしそうだった。母が亡くなってから花を贈る相手がいなくなってしまい、張り合いがなかったのかもしれない。
すっかり和解が叶った俺たち父子は、その晩久々に一緒に酒を飲んだ。
これまであまり口にしてこなかった母との思い出を語らいながら飲む酒はほんのり切ない味がしたが、拗れていた父との関係が穏やかにほどけていく。
瞬きをすると安心して微笑んでいる母の姿がまぶたの裏に像を結び、まるで久々に家族三人で過ごしているような気分だった。