ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
私の頭の中には彼との楽しかった時間が走馬灯のように流れているが、彼の方は違う。
そう思ったらもう、彼を自由にしてあげるしかなかった。
泣いて駄々をこねるなんて痛々しい真似はしたくないし、そんなことをしても報われないと、三十年も生きていれば知っている。
『苑香さん、そういうところだよ』
「……えっ?」
『この人、俺のこと本気で好きだったのかなって疑っちゃう理由。ま、別にもうどうでもいいんだけどね。……それじゃ、お元気で。誕生日オメデト』
通話はそこでブツッと途切れた。
おめでとうと言いながらパイを投げつけるような皮肉たっぷりのコメントに、心が深くえぐられる。
遼太くんはきっと、私にかわいげがないと言いたかったのだ。
「……余計なお世話よ」
そんなもの、仕事にかまけているうちに自然と削がれてしまった。
そもそも、そんな私を応援してくれていたのは彼だ。かわいげのない私でもいいからと、好きになってくれたのではなかったのだろうか。時間が経って、その気持ちが色褪せてしまったのだろうか。