ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
統はそんな薄情者ではない。これまで何度も彼の優しさに助けられてきたじゃない。
自分に言い聞かせていると、隣から小さなため息が聞こえた。
横を向くと、カンナが思いつめたような顔で私を見ていた。
「私、ね。今は思ってないけど、実は少し前まで苑香にはずっと独身でいてほしいなって思ってたんだ」
唐突に変なことを言い出すカンナに、思わず目を丸くする。彼女らしくない、頼りなげな微笑を浮かべているのも気になった。
「私も多少の恋はしてきたけど、結婚には縁がなくてさ。仕事が楽しければそれでいいやって、最近ではもうあきらめてたの。婚活とかにも興味がないし」
「うん……」
若い時は恋バナをし合ったりもしたが、そういえばここ数年は私の話ばかりだった。
パートナーがいなければいないでいい。カンナがそういうスタンスだったので、私もとくにお節介を焼いたりはしなかった。
「苑香の相手がカーネーション王子だった頃はまだよかったの。年下で、芸能人なんて安定とは対極にいるような職業の相手だったから、結婚はないよなーって、勝手に安心してた。でも……瀬戸山園の御曹司と知り合ったって聞いた時、胸がザワッとしちゃって」
彼女の告白に、黙って耳を傾ける。胸がチクッと痛くなったのは、カンナの本心に傷ついたからじゃない。たぶん、私も少なからず共感する面があるからだ。