ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~

 玄関で父と話している間に、母と妹は遠慮なく部屋に上がって「サンルームがある!」とか、「こんないい部屋に住んでいるなんて稼いでるのねぇ」とか、好き勝手なことを言っている。

 私は自分で花屋をやると決めた時から、家族に頼るつもりはなかった。

 だから引っ越しなどをも手伝ってもらわなかったし、この部屋に家族を招いたこともない。

 そのせいもあって、彼らにとっては久々に会う私の暮らしぶりが新鮮というか、物珍しいのだろう。

「それで、今日はまたどうしてここに?」
「瀬戸山さんに頼まれたんだ。今日、これから苑香をある場所へ連れて来るようにって」
「せ、瀬戸山さん……? どうしてお父さんが瀬戸山さんと知り合いなの?」

 頭の中が疑問符で一杯になる。統の名前が出たこともそうだけど、〝ある場所〟というのもよくわからない。私だけが置いてけぼりだ。

「まあまあ、約束の時間はまだだから、ケーキでも食べて待とう」
「いや、事情がわからないままケーキなんて……」

 私を追い抜かすようにして廊下に上がった父の背中を追う。

 リビングダイニングに入ると、紅茶のいい香りがした。

< 195 / 229 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop