ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~

 浅草の老舗旅館『紫陽花楼(あじさいろう)』の大広間には、すでに多くの人々が集まっていた。

 今日のイベントは、高名な華道家、矢代絹江(やしろきぬえ)先生のいけばな展の一般公開に先駆けた内覧会。

 先生と同じ華道家や、日本文化に精通した著名人の方々、報道関係者。それから、私のような花屋業界の関係者が招待されている。

 白いクロスがかけられた展示台の上には、大胆な印象の生け花から儚く繊細なものまで、花の魅力を存分に引き出した作品が並んでいた。

「ねえ、あれ、瀬戸山(せとやま)園の……」
「若社長とは聞いていたけど、あんなに素敵なんだ」

 そばにいたふたりの女性が、ひとつの展示台のそばに立つ男性を見て華やいだ声を上げた。

 会場にいる誰より背が高く目立っているその人は、涼しげな目元や意思の強そうな眉、まっすぐ伸びた鼻筋が完璧な位置に配置されており、確かに眉目秀麗。

 しかし、私はどうしても敵対視してしまう存在だった。

 瀬戸山(おさむ)、三十一歳。冠婚葬祭のプロデュースや造園業まで幅広く展開する老舗花屋『瀬戸山園』の御曹司で、昨年社長に就任したばかりだ。

 敵対視しているといっても、別に彼になにかされたというわけではない。

 花屋業界のトップを走る瀬戸山園の社長を務めている彼を、同世代だからという理由で私が勝手に意識しているだけなのだ。

 いつか、あなたの会社を追い抜いてやるぞって。

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