ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
遼太くんと話している時には影を潜めていた悶々とした気持ちが膨らんで、私の胸を圧迫する。
どうしよう。泣きそうだ。
ツンと痛む鼻に折り曲げた人差し指をあて、潤む瞳から涙がこぼれないよう、必死で堪えていたその時だった。
「美吉」
背後からぶっきらぼうに私を呼んだ声は、天敵、瀬戸山統のものだった。
あまり声をかけられたくないタイミングだったので、ビクッと肩が震える。
このタイミングでなんの用……?
不本意ながらも、ゆっくり後ろを振り返る。
うっかり泣かないよう、目や唇にぐっと力を入れる。自然と瀬戸山を睨むような表情になってしまうが仕方がない。
「大丈夫か?」
目が合った瀬戸山は困惑気味だ。けれど私を気遣う声は優しくて、瞳に張った涙の膜がいっそう分厚くなった。
彼の前で泣きたくなんてないのに……。
「な、なにがです?」
「人に……というか、俺に弱みを見せたくないのはわかるが、そんなにやせ我慢しなくたっていいだろう」
「やせ我慢なんかしてません。それより、なんのご用ですか?」
聞きながら、わずかに濡れてしまった目尻を指先でサッと拭う。
スラックスのポケットに手を入れた彼は、手のひらサイズの小さなものを取り出した。