ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~

 家族四人でマンションを出ると、統の言った通りタクシーが迎えに来ていた。

 車は行き先を継げなくても走り出し、釈然としないまま車窓から外を眺める。

 一体どこへ向かうって言うの……?

 その答えがわかるのは、意外とすぐだった。マンションからおよそ十分で到着したそこは、私のよく知る懐かしい店があった場所だったのだ。

 しかし、タクシーの窓ごしに店の姿をとらえてからずっと、私の頭は混乱状態に陥っている。

 色褪せていた外壁のレンガタイルが綺麗になっていて、シャッターが下りている店の出入り口の上には、閉店した総菜屋の看板の代わりに、美吉ブロッサムの看板がかかっていた。 

 それも、デザインを一新した現在のロゴではなく、祖父母の店で使っていたのと同じ、レトロな看板だ。

 店の前でタクシーを降り、ぽかんと建物を見上げる。

 まだ店をやっていた頃にタイムスリップしたかのような錯覚にとらわれて、目の前の光景が夢か現実かわからなかった。

 一緒にタクシーを降りた家族が、私の脇に並んで同じように店を見つめる。

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