ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
「思い出って?」
統もまた、私にそう尋ねながら花を選び始めていた。ジッと見てしまったらおもしろくないので、私は自分の手元に集中して答える。
「初めてひとりで作った花束が、紫陽花を使ったものだったの。お見舞い用にって、ちょっと年上っぽい男子高校生が買いに来てくれて」
彼が私の初恋だったかもしれないと伝えるのはやめた。
今私の心が想っている相手は統なのだから、わざわざ言って不快にさせたくない。
その代わり、紫陽花をいくつか選んだ後は、赤いバラを三本花束に追加した。
贈る本数ごとに異なるバラの花言葉の中でも、三本は〝愛している〟を意味する。今日、私の想いを伝えるにはぴったりだ。
「その花束に使ったのは、ピンク系の紫陽花だろ。それに薄紫の小ぶりなタマアジサイも合わせて、オレンジ色のバラ、カスミソウ、ガーベラも入っていたな。外は雨だからときみは防水のラッピングペーパーを選んでくれて、最後に黄緑色のリボンを飾った。あとはそう……店を出る前に、ショップカードをくれた」
どうして彼がそれを……。
バケツのそばで屈めていた腰を上げ統を見つめる。店内の少し離れた場所にいた彼もまた、私にまっすぐな視線を向けていた。
ずっと忘れていたあの時の高校生の顔が、今になって彼と重なる。