ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
「ご新婦様、そろそろご移動のお時間です」
介添の女性に声をかけられ、名残惜しく思いながらも『あとでね』と言ってふたりと別れる。
ドレスの裾を踏まないようゆっくりゆっくり足を進め、式場へと向かった。
下見の時にひと目で気に入った大聖堂には、巨大なステンドグラスが壁から天井にかけて広がっていた。
そこから差し込むやわらかな春の日差しに包まれ、私は父と一緒にバージンロードを進む。
「……花があまり好きじゃなかった俺が言っても、説得力はないかもしれないけどな」
パイプオルガンの荘厳な音に紛れ、私にだけ聞こえるほどの声で父が言う。
「今日の苑香は、どんな花より一番綺麗だ。瀬戸山くんに渡すのが惜しくなるくらい」
「お父さん……」
似合わないこと言って、どうしたの?
茶化すようにそう思うけれど、瞳には勝手に涙が浮かんでしまった。
父は最初美吉ブロッサムの復活には反対していたし、私が仕事に失敗して実家に戻ればいいなんて思ったこともあったみたいだけれど、だからって私の将来を無理やり狭めるようなことはなかった。
家を出るのも許してくれたし、やりたいことを好きなようにさせてくれた。
娘の私を信じてくれていた証拠だろう。今では感謝の気持ちしかない。