ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~

「ありがとう。私、きっと幸せになる」
「ああ。行ってこい」

 父の優しい後押しを受け、顔を上げる。祭壇の前に立つ統が、ステンドグラスから降り注ぐ光の中で、私に手を差し伸べた。

 格調高いブラックタキシードの左胸に、お揃いのブートニアをつけて。

「新郎、瀬戸山統。あなたはここにいる新婦苑香を、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、妻として愛し敬い、慈しむことを誓いますか?」
「はい。誓います」

 神聖な空気が満ちた大聖堂に響く統の声は、夫になる覚悟を滲ませたように、どっしりと頼もしく感じられた。

 新婦の私にも同じ問いかけが繰り返され、私もまた、統の妻になるという自覚をしっかりと持ちながら、「誓います」と答えた。

 誓いのキスのために統と向かい合い、彼の手によってベールを引き上げられる。

 彼の澄んだ瞳とじかに見つめ合うとそれだけで胸がいっぱいになり、視界がゆらゆらと揺れた。

 肩にそっと手を置かれ、優しいキスが重なる。こらえきれなかった涙がひと筋、頬を伝うのがわかった。

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