ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
「う、うちに来るつもりですか? それはさすがに……」
「お望みなら、ハッピーバースデーの歌を歌ってやってもいいけど」
「いや、そういうことではなく……どうしてそこまで私に構うんですか?」
同業者ゆえの仲間意識? いや、今日の彼の行動は、そんな言葉で片づけられるものじゃない。
そもそも私たちは今日が初対面のはずだ。こんなに気にかけてもらう理由が、まったく思い当たらない。
一瞬沈黙が落ち、タクシーの走行音だけが車内に響く。しかし、軽く視線を落としてなにか考えていた瀬戸山はすぐに顔を上げて私を見た。
「美吉苑香という人間に、こんなところで腐ってほしくないからだ」
冷静な口調の中にも、瀬戸山の強い感情が込められている気がした。
だけど、そんな風に言ってもらう心当たりはまるでない。
「……私のこと、今日より前からご存じだったんですか?」
「ああ。瀬戸山園を継ぐ気なんてなかった過去の俺が、花屋業界に身を置こうと決めたきっかけを作ったのはきみだ。だから、失恋の傷ひとつで心を折らずに、いつもの強気な眼差しを早く取り戻してくれ。俺にできることがあるなら、協力する」