ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
「それ、いつの私と比べているんですか? タクシーの中でも昔の私を知っているようなことを言っていましたが」
「その話は、いずれな」
瀬戸山ははぐらかすようにサンルームを出て、キッチンの方へ歩いていく。
「いずれって……」
「紅茶淹れるんだろ? 茶葉やポットはどこにある?」
「それなら私がやります。どうぞ座ってください」
キッチンは目の前がカウンターになっているので、そこに置かれた丸いスツールに座るよう勧める。しかし、瀬戸山はなぜかキッチンから出て行かない。
「誕生日の主役を働かせるのは忍びない」
「そう言われても……じゃあ、ケーキを切るのをお願いします。今、お皿と包丁を出しますから」
「切る前にロウソクに火をつけて歌わなくていいのか?」
「いらないです、子どもじゃあるまいし」
遼太くんとふたりならやろうと思っていたけど……。
「誕生日は子どもじゃなくたってめでたいだろ。遠慮せず盛大に祝えばいい」
キッチンに両手をついて私の顔を覗き込む瀬戸山。
彼の眼差しはいつもぶれずに真っすぐ心に刺さる気がして、なんだかたじろいでしまう。