ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
今日も同じことを胸の内で呟き、瀬戸山統をひと睨みする。
矢代先生の作品に夢中の彼はまったく気づくことはなく、ちょうど今が見頃の八重桜を使った作品に熱い視線を送っていた。
「イケメンと桜、合うわぁ」
「ホント。彼も作品の一部みたいね」
それはさすがに言いすぎでしょう……。
先ほどのふたりが漏らしたうっとりとした声に軽くため息をついていたら、ふいに瀬戸山統と目が合った。
思わずどきりとして顔を背ける。彼本人に、子どもっぽいライバル心を抱いているのがバレるのは嫌だった。
瀬戸山園にとっては美吉ブロッサムなんてライバルでもなんでもない、街の小さな花屋のひとつでしかないだろうから。
開始時間になると矢代先生がしずしずと会場に現れた。
五十代という年齢だからこその深みのある美しさをたたえた先生は、白地に牡丹と唐草模様があしらわれた訪問着に身を包み、司会者の紹介で丁寧に挨拶をする。
先生の作る作品同様、言葉の選び方、立ち居振舞いのすべてに品があって、惚れ惚れしてしまう。