ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~

「でも私、三十ですよ?」
「いいじゃないか。三十。女性なら、ますます綺麗になっていく歳だ」
「それ、四十の人にも五十の人にも同じことを言うんでしょう」

 拗ねたように口を尖らせたら、瀬戸山がフッと笑う。

「そうだな。四十になっても五十になっても、きみは綺麗だと思う」

 私の意図した反応とはまったく別の答えが返ってきて、勝手に頬が熱くなった。

 臆面もなくこうした恥ずかしいセリフを口にできるということは、瀬戸山統、やっぱり危険な男なのだろうか。家に上げたのは間違いだった?

 ……いや、だとしても私が流されなければいいだけのことだ。『綺麗』のひと言くらいで照れている場合じゃない。

 気を取り直して瀬戸山にケーキ用の包丁を渡し、背後の棚を開けながら聞く。

「紅茶、ダージリンとウバがありますがどっちがいいですか?」
「苑香が飲みたい方でいいよ」
「じゃあ、ダージリンで……」

 ん? 今、苑香って言わなかった……?

 ここへ来るまではずっと『美吉』って名字で呼んでいたのに……。

 戸棚から出した茶葉の缶を手に、つい瀬戸山を凝視してしまう。箱から出したホールケーキを何等分にするか考えているらしい。その横顔は真剣だ。

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