ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
 カウンターに紅茶とケーキを並べて、ささやかなお茶会を始める。

 瀬戸山はケーキを口に入れてすぐ「甘っ……」と顔をしかめた。

 そんなに甘すぎるのかと私もフォークで崩したひと切れを口に入れてみたが、ごく普通の甘さだし、とても美味しい。

 あまり甘いものが得意じゃないのだろうか。でもそれなら、『ケーキの処理を手伝ってやろうか』なんて言わないか……。

「……で、なんでフラれたんだ?」
「えっ?」
「泣いたってことは、きみの方はまだ彼を好きだったんだろ?」

 世間話のように気楽な声だったので油断していた。かさぶたになりかけていた心の傷に触れられ、うっかり目に涙が滲む。

 なんとかごまかしたくて瞬きを繰り返した私は、瀬戸山の方を見ずに苦笑した。

「それ、答えなきゃダメですか?」
「嫌ならいい。せっかく一緒にいるんだから愚痴の聞き役にでもなろうと思っただけだ」

 愚痴の聞き役、か……。

 確かに、このままひとりで悶々とするよりはいいのかな。黙ってケーキを食べているだけなのも気まずいし。

 どうせこの男には、すでに恥ずかしい泣き顔を見られているのだ。

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