ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
唇が触れ合う直前で我に返った私は、とっさにお互いの口を手のひらで押さえた。
キスはしなかったものの、指先に触れた彼の唇の感触が生々しくてどきりとする。
「なんだよ、せっかく〝特別〟の意味を教えてやろうとしたのに」
どこか拗ねた口調の瀬戸山だが、細められた目には大人の男性の色気が漂っていた。
ますます暴れる心臓をなだめつつ、小刻みにかぶりを振る。
「ダ、ダメです……! 私たち、そういう関係じゃないのに」
いくら遼太くんと別れたからといって、すぐに他の男性とキスするなんて無責任な行動はしたくなかった。
にもかかわらず、こうして瀬戸山を自宅に上げている状況が自分でも不思議だ。誕生日に失恋、という大ダメージに、正常な判断力を奪われていたとしか思えない。
「じゃあ付き合うか?」
「なに言ってるんですか! ふざけるのもいい加減にしてください」
「ふざけてない。でもまぁ、失恋したばかりの苑香に迫るのはちょっと狡いやり方だったかもな。悪かったよ」
頬に添えられていた手がふにっと私の頬をつまみ、軽く引っ張って揺らす。
全然悪いと思っていないようなじゃれ方にますます腹が立って、彼の手を無理やり押しのけた。