ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~

「もちろんだ。同業者はみんな、美吉ブロッサムの急成長に刺激を受けているし、焦っているとも思う。苑香の努力は着実に実を結んでいるから、もっと自信を持て」

 正直、自分も会社もまだまだだと思っていただけに、彼の激励がじんと胸に沁みた。

 私……こんな風に、誰かに自分を肯定してもらうことに飢えていたんだ。

 美吉ブロッサムは好きでやり始めた会社だけれど、社長という肩書きの重さを時々しんどく感じることがある。

 人脈も少ないから相談できる相手はほとんどおらず、自分の進む道が正しいのかそうでないのか不安で、なにもない砂漠に放り込まれたように途方に暮れてしまうことも。

 それでも少ない経験と直感、仲間たちを信じて、心の指針が指し示す方へと進んできた。

 その苦労が今、瀬戸山の言葉で報われた気がする。私たちが向かっている目的地は、決して蜃気楼ではなかったのだと。

 思わず潤んだ目元を隠すように俯くと、片付けを終えた瀬戸山がリビングに戻ってくる。

 そのまま窓辺に近づいた彼は真っ暗なカーテンの外を見てから、腕時計を確認した。

「話しているとあっという間だな。そろそろ失礼する。雨も降って来たみたいだし」

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