ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
『誕生日おめでとう。……ギリギリ間に合ってよかった』
チラッと壁の時計を見上げた彼がそう言って笑った。日付が変わる寸前だった。
『ありがとう……ございます』
誰にもお祝いしてもらえないと思い込んでいたから、私はほんの少し涙ぐんでしまった。瀬戸山はそんな私の髪を優しく撫で、穏やかに微笑む。
ベッドから抜け出すタイミングをすっかり失った私は、そのまま彼の隣で眠ったのだった。もちろん約束通り手は出されていない。
「……リビングにいるのかな」
壁の時計は間もなく午前九時を示そうとしていた。朝ごはんを作ろうとしていたとは思えない、派手な寝坊っぷりだ。
顔を合わせたら笑われるかもしれない。
スリッパの音を鳴らしながら、小走りでリビングダイニングに向かう。
そうっとドアを開けると、そこには誰の気配もなかった。
「瀬戸山さん……?」
室内に足を進めると、昨日彼とケーキを食べたカウンターの上に、ラップのかかった皿が置かれているのに気づく。
大きめのおにぎりがふたつと、綺麗な焼き色がついただし巻き卵。ミニトマトがふたつ。
朝ごはんは私が作る予定だったのに……やられた。しかも、私が作るよりもずっと美味しそう……。