ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
「みんなには、来月から順に休暇を取ってもらおうと思います」
「えっ? 休暇? 急にどうしたのよ、苑香」
隣に座っていた副社長のカンナが、眉を顰める。
前髪のないボブヘアがよく似合うきりりとした顔立ちの美人で、私と同じく仕事命。公私ともによき相談相手だ。
「急じゃないの。みんながちゃんと休めていないのがずっと気になっていて、何とかしなきゃと思ってた。だから、たとえ業務が滞っても無理やりにでも休んでもらう」
役員は労働基準法に縛られない。だからってスーパーマンなわけではないのだから、無理を続けていたらいつか体や心に不調をきたす。
わかっていたのに、瀬戸山に指摘されるまでそのことから目を逸らしていた自分が情けなくて、すぐに対策を講じることにした。
「そもそも、正当に休みを取っただけで業務が滞るなら、元々詰め込みすぎだったのよね。今まで無理をさせて本当にごめんなさい」
ぺこりと頭を下げ、みんなの反応を待つ。
カンナは納得したように頷いてくれたけれど、その他のふたりは黙っている。
「左木くん、どう?」
カンナの隣に座っている、ふわふわの羊パーマに黒縁眼鏡の男性が左木くん。優秀なSEで、社内のシステム管理における責任者。
年は私やカンナよりひとつ年下だが、フラットな意見をくれる頼もしい存在だ。