ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
誕生日から三週間が経ち、失恋のショックもだいぶ薄らいでいた休日の午後。
サンルームのプランターで綺麗に花開いたチューリップに水を上げていると、リビングで点けっぱなしにしているテレビから知った人の声が聞こえてきた。
『あなたの疲れ、僕が癒やしてあげる』
思わずじょうろを持ったまま振り向くと、遼太くんが女性にバックハグするシーンが目に入る。
よくよく見ていると、肩回りを温める温熱湿布のCMだった。
遼太くんは擬人化された湿布の役だったらしい。いかにも女性が喜びそうな演出だ。
「……久々に見ちゃった」
これまで、特に避けていたわけではないのだが、運よく遼太くんの出演する映像に触れずに過ごせていた。
だからすっかり大丈夫だろうと思っていたのに、彼を見るとやっぱりまだ少し、胸の奥が疼く。
未練があるわけではないものの、気持ちのいい別れ方をしたとは言い難いから……。
遼太くんのCMはとっくに終わっているのに、ぼうっとテレビの前に立ち尽くしていたその時。ピンポン、とマンションのチャイムが鳴った。
共用玄関に誰か来ているみたいだ。