ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
「こ、こんにちは……どうしたんですか、急に」
「また会いに来ると言っただろ。それに苑香が連絡してこないから、突然訪問する以外の方法がなかった。迷惑なら日を改める」
シンプルな黒いTシャツの上にベージュのシャツを羽織り、細身のデニムを合わせた彼はスーツの時より若々しくて、二十代といってもおかしくないくらいに見える。
ついまじまじと見てしまってから、ハッと我に返った。
「私はとくに予定がなかったので迷惑と言うことはありませんが……瀬戸山さんの方がまずいのでは?」
「まずいって、なにがだ?」
まったく思い当たらないという表情の瀬戸山が憎たらしい。
九条百貨店のお嬢様に『あなたの婚約者、こんなところで油を売ってますよ!』と告げ口したくなる。
「婚約者の方がおられると噂で聞きました。だから、たとえ深い意味がなくてもこうして女性の家を訪ねたりするのは、相手の方に失礼なのでは?」
少なくとも、私が婚約者の立場なら愉快ではない。
そう思って投げかけた質問に、瀬戸山はため息をつく。