ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
「矢代先生、本日はお招きありがとうございます」
私たちが話していたのにも構わず、瀬戸山統が割り込んでくる。
『お話し中すみません』くらい言ったらどうなの……?
先生に向けていた笑みが若干引きつってくるのを感じつつ、とりあえず静観する。
「統さん、今日はあなたが来てくださったのね。とってもうれしいわ」
矢代先生の声のトーンが半オクターブくらい高くなった。
それに『統さん』って……?
「父に頼み込んだんですよ。先生の生け花が見たいから、俺に行かせてくれと」
目上の女性との会話で〝俺〟とは、ずいぶん雑な話し方だ。
もしかして、古くからの知り合いとか?
親しげなふたりにやきもきしていると、先生が彼に問う。
「まぁ。さすが、勉強熱心ね。どの作品が気に入った?」
「あの八重桜の作品ですね。他の花材を合わせず八重桜単体にしたことで、花本来が持つ美しさと、どっしりした枝の力強さが見事に表現されています」
私も同じ生け花の感想を言おうとしていたので、先を越されたようで余計に腹が立った。
彼はいつまでここにいるのだろう。私はまだ、肝心なビジネスの話ができていないというのに。