ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
「……じゃ、今電話をかけます」

 彼に教えられたはいいが一度もかけていなかった番号に、初めて自分のスマホから発信する。すぐさま彼のスマホが震え、私の番号が表示された。

 電話はすぐに切ったけれど、瀬戸山はいつまでも感慨深そうにスマホを眺めている。

「あの……?」
「誰かの番号を知っただけで浮かれるなんて、初めての経験だ」
「えっ?」

 ドキッとして聞き返す。だけど瀬戸山は、自分だけ満足そうに笑うだけだった。

「用がなくてもかけるかもしれない。迷惑だったら言って」
「……迷惑です」
「ばか、まだかけてないだろ」

 彼が笑いながら『ばか』と言ったその瞬間、胸がやけにくすぐったくなった。

 悪態をつかれているにもかかわらず、彼の甘やかな感情が伝わってくる気がしたのだ。

 これも瀬戸山の作戦? だとしたら侮れない……。

 絶対に彼に落ちるものかと決意する裏で、確実に揺れ動くもうひとりの自分がいる。

 彼とデートをするその日、どうかその〝私〟が顔を出しませんように……。

 祈るように思いながら、私は食べかけのレアチーズケーキに向き直った。

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