ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
「……と、とにかく明日、よろしくお願いします」
『ああ。大事な予定の前に風邪を引くなよ。おやすみ』
電話を切る直前の瀬戸山の声が、不思議と甘く感じられてむず痒い。
スマホを胸に抱いてギュッと目を閉じ、瀬戸山人形を思いっきり殴る妄想をしてみるものの、振り上げたこぶしは結局下ろせなかった。
相変わらず憎たらしいライバルではあるが、彼が魅力的な人間であることはとっくにわかっている。彼の一挙一動に心を乱されていることも。
……だからって、また男の人と一から恋をやり直す体力も気力もない。
彼が望んでいる〝結婚〟なんてもってのほかだ。
相手のために生活リズムを変えたり擦り合わせたりして、一緒に過ごす時間を捻出して。できるだけ楽しい時間を過ごせるよう努力していたつもりなのに、『勝手だ』と言ってあっさり去っていく人だっているのだ。遼太くんのように。
瀬戸山自身のことを考えたって、まだ成長途中の小さな会社の経営でいっぱいいっぱいの私と結婚したところでメリットがあるとは思えない。
九条百貨店の若すぎるお嬢様はともかく、彼に相応しい相手はもっと別にいるだろうし、あの容姿と強引な性格を駆使すれば、女性の方から言い寄ってきそうなのに……どうして私なんか。
鬱々した気分をごまかすように、グラスに残っていたワインをぐっと飲み干す。
そのまま投げやりにソファに身を横たえたら、私はいつの間にか眠ってしまっていた。